暗号資産(仮想通貨)の世界では、単なる決済手段や投資対象としての役割を超えた新しい概念が次々と誕生しています。
その中でも近年特に注目を集めているのが「ガバナンストークン」です。
本記事では、次世代の組織運営を支えるガバナンストークンについて、その仕組みから具体的な活用事例まで詳しく解説していきます。
ガバナンストークンの基礎知識

ガバナンストークンとは、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)やDApps(分散型アプリケーション)などにおいて、保有者に意思決定への参加権利を与える暗号資産のことを指します。
従来の企業や組織では、経営陣や少数の幹部が中心となってトップダウン形式で重要な決定を下してきました。
しかしガバナンストークンを活用したDAOでは、トークン保有者全員が組織の運営方針や開発の方向性といった重要事項について投票する権利を持ちます。
この仕組みにより、年齢・国籍・居住地などの制限なく、トークンを保有することで、国籍や年齢を問わず組織運営に参加できるようになります。
ガバナンストークンを保有する利点

ガバナンストークンを保有すると、通常の暗号資産を保有する以上のメリットがあります。
- 組織の未来を形作る投票権
- 多様なインセンティブと特典
- 投資対象としての価値
組織の未来を形作る投票権
ガバナンストークンの最も本質的なメリットは、プロジェクトやサービスの運営に関する重要な決定に直接関われる点です。
新機能の追加、手数料体系の変更、資金の使途、提携先の選定など、さまざまな議題について自分の意見を投票という形で反映させられます。
特に自分が日常的に利用しているサービスやゲームの運営方針に意見を述べられるという点は、ユーザーにとって大きな魅力といえます。
従来であれば運営側の一方的な決定に従うしかなかった立場から、能動的に関与できる立場へと変化できるのです。
なお、自身で投票に参加する時間がない場合や、特定の分野に詳しくない場合には、信頼できる第三者に投票権を委任することも可能です。
多様なインセンティブと特典
多くのガバナンストークンでは単なる投票権だけでなく、保有者に対してさまざまな特典やインセンティブが用意されています。
このようなインセンティブは、株式における配当や株主優待に近い概念といえるでしょう。
特典例
- 手数料割引
- アクセスの優先権
- 限定NFTの配布
- ステーキング報酬
このような仕組みは、トークン保有者に対してプロジェクトに継続的に関与させ、長期的な保有を促す効果があります。
また、プロジェクトへの貢献度に応じて追加のトークンが配布される仕組みを採用しているDAOも存在します。
購入以外の方法でトークンを入手できる可能性があるという点は、資金に余裕のない参加者にとっても魅力的です。
投資対象としての価値
ガバナンストークンは他の暗号資産と同様に、市場で取引されることによって価格が変動します。
将来性の高いプロジェクトのガバナンストークンを早期に取得しておくことで、価格上昇による売買差益を狙うことも可能です。
実際、時価総額ランキングで上位に位置するガバナンストークンも複数存在しており、投資家からの高い関心を集めています。
発行枚数に上限が設定されているトークンの場合、需要の増加に伴って希少性が高まり、価値が上昇しやすくなるという特性もあります。
ただし、暗号資産市場特有のボラティリティ(価格変動の大きさ)には十分注意が必要です。
投資を検討する際には、プロジェクトの将来性やトークンの設計、市場動向などを慎重に分析することが求められます。
ガバナンストークンが抱える課題

上記で紹介したように、ガバナンストークンの保有は利点が多い一方で、いくつかの課題も挙げられます。
- 意思決定の遅延
- 権力集中のリスク
- ロックアップ解除による価格変動
意思決定の遅延
従来の中央集権型組織では、トップの判断により素早く方向転換することが可能でした。
しかしガバナンストークンは、民主的な投票による意思決定は公平性が高い一方で、迅速な対応が求められる場面では欠点となる可能性があります。
全参加者から投票を集めるプロセスには一定の時間が必要であり、緊急性の高い問題に対して即座に対処することが難しくなるケースがあります。
市場環境の急激な変化や予期せぬトラブルへの対応において、意思決定の遅延が競争力の低下につながるリスクは無視できません。
この課題に対しては、緊急時の迅速な対応メカニズムを別途設計しておくなど、柔軟性を持たせた運営体制の構築が求められています。
権力集中のリスク
ガバナンストークンによる民主的運営を目指しながらも、実際には大口保有者による権力集中が発生する懸念があります。
保有量に応じて投票権が付与される仕組みでは、資金力のある個人や団体が大量のトークンを取得することで、事実上の支配権を握ってしまう可能性があるのです。
特にプロジェクトの初期段階で一部の投資家による寡占状態が生まれてしまうと、分散型を標榜する組織の本質的な意義が損なわれてしまいます。
こうした事態を防ぐため、投票権に上限を設けたり保有期間に応じて投票力を調整したりするなど、いくつかの対策が検討されています。
ロックアップ解除による価格変動
ガバナンストークンの中には、発行当初に一定量を市場に流通させず凍結させる「ロックアップ」という仕組みを採用しているものがあります。
これは価格の安定化を図る目的で行われますが、ロックアップ期間が終了して大量のトークンが市場に放出されると、供給過多により価格が急落するリスクがあります。
投資家としてガバナンストークンを保有する際には、ロックアップの有無やその解除スケジュールを事前に確認しておくことが重要です。
突然の価格暴落により大きな損失を被る可能性もあるため、慎重な判断が求められます。
代表的なガバナンストークンの事例

以下で、代表的なガバナンストークンを確認していきましょう。
- MKR(メイカー)
- UNI(ユニスワップ)
- AAVE(アーべ)
- APE(エイプコイン)
- GMT(グリーン・メタバース・トークン)
MKR(メイカー)
MKRは、ステーブルコインのDAIを発行するレンディングプラットフォーム「Oasis.app」を運営するMakerDAOのガバナンストークンです。
MKR保有者はMakerDAOにおける運営方針や重要な決定事項について、投票する権利を得られます。
MakerDAOは当初メイカー財団が主導していましたが、真の分散型運営を実現するために財団が解散を決定したことでも知られています。
国内の一部取引所でも取り扱いがあり、比較的入手しやすいガバナンストークンの一つといえるでしょう。
UNI(ユニスワップ)
UNIは世界最大級のDEX(分散型取引所)であるUniswapのガバナンストークンです。
Uniswapは仲介者を介さずユーザー同士が直接暗号資産を交換できるプラットフォームとして高い人気を誇っています。
UNI保有者はUniswapの運営に関する投票権を持つだけでなく、流動性プールに暗号資産を提供することで報酬としてUNIを獲得することも可能です。
時価総額も大きく、主要なガバナンストークンの一つとして認知されています。
AAVE(アーベ)
AAVEは暗号資産の貸借を行うレンディングプロトコル「Aave」のガバナンストークンです。Aaveでは、暗号資産を貸し出すことで利息を得たり、担保を預けて別の通貨を借りたりできます。
AAVE保有者には運営に関する投票権が付与されるほか、サービス利用時の手数料割引などの特典も用意されています。
利用者へのインセンティブとしてAAVEが配布される仕組みもあり、長期的な保有を促進する設計と言えるでしょう。
APE(エイプコイン)
APEはApeCoin DAOのガバナンストークンで、人気NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」とも深く関連しているトークンです。
ApeCoin DAOはアート、ゲーム、エンターテインメント分野でのエコシステム拡大を目指しています。
APEはDAO内での投票権に加えて、関連サービスでの決済手段やアクセス権としても機能する多目的なトークンです。
国内の一部取引所でも取り扱いが始まっており、今後の展開が注目されています。
GMT(グリーン・メタバース・トークン)
GMTは「歩いて稼ぐ」で話題となったブロックチェーンゲーム「STEPN」のガバナンストークンです。
STEPNではユーザーが実際に運動することでトークンを獲得でき、健康促進と収益化を両立させた新しいコンセプトとして人気を集めました。
GMT保有者はSTEPNの運営方針に関する投票に参加できるほか、ゲーム内のNFTアイテムの強化や新規発行にもGMTが使用されます。
ゲームとガバナンスを組み合わせた興味深い事例といえるでしょう。
まとめ|ガバナンストークンは暗号資産業界の民主化を促す
ガバナンストークンは、Web3時代における新しい組織運営の形を実現しました。
年齢や国籍に関係なく誰もが組織の意思決定に参加できる民主的な仕組みは、従来の中央集権型組織にはない魅力を持っています。
投票権の獲得、特典やインセンティブの享受、投資対象としての価値など、ガバナンストークンには多面的なメリットがあります。
一方で、意思決定の遅延、権力集中のリスク、価格変動の大きさといった課題も存在することを認識しておく必要があります。
DAOとガバナンストークンの概念はまだ発展途上であり、今後もさまざまな試行錯誤を経て洗練されていくでしょう。
興味を持った方は、まず少額から実際にガバナンストークンを保有してみることで、次世代の組織運営の一端に触れてみてはいかがでしょうか。
プロジェクトの理念や将来性をしっかりと見極めながら、新しい時代の民主的なガバナンス体制に参加する経験は、きっと貴重なものとなるはずです。

