近年、世界中で「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」に対する注目が高まっています。
中国の「デジタル人民元」をはじめとし、欧州中央銀行(ECB)や米連邦準備制度理事会(FRB)、そして日本銀行でも「デジタル円」の導入に向けた検討が進められているのは有名な話です。
こうした動きは、既存の仮想通貨(暗号資産)や金融システム全体に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
本記事では、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の基本知識や仮想通貨との違い、そして今後の将来予測とそれが私たちの資産にどのような影響を及ぼすのかを詳しく解説します。
CBDCとは何か?
CBDC(Central Bank Digital Currency)は、中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨です。
現金と同様に国家によって保証されており、信用力が極めて高いという特徴があります。
現在のところ、多くの国が研究・実証実験の段階にありますが、実際にCBDCを導入している国もあります。
国・地域名 | CBDC名 | 開催時期 | 概要 |
バハマ | Sand Dollar | 2020年 | 世界初の正式導入。全国民が利用可能。 |
ナイジェリア | eNaira | 2021年 | アフリカ初のCBDC。利用拡大に苦戦中。 |
ジャマイカ | JAM-DEX | 2022年 | 法定通貨としての地位あり。現金に代わる決済手段として導入。 |
東カリブ諸国中央銀行(ECCB) | DCash | 2021年 | 東カリブ通貨同盟8カ国で導入。モバイル決済で利用。 |
多くの国において、今後5〜10年で本格導入される可能性が高いと見られており、日本銀行は2021年から実証実験を行い、2025年には本格的な導入判断を下す可能性があります。
CBDCと仮想通貨の違い
CBDCとビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)は、デジタル通貨という点では似ていますが、根本的に異なる点がいくつもあります。
比較項目 | CBDC | 仮想通貨 |
発行主体 | 各国の中央銀行 | 分散型ネットワーク(非中央集権) |
価値の保証 | 政府及び中央銀行 | 市場の需要と供給に依存 |
価格の安定性 | 安定(法定通貨と同等) | ボラティリティがある |
目的 | 決済の効率化・金融包摂 | 投資・価値保存・分散型金融 |
まず通貨の発行主体ですが、CBDCは各国の中央銀行が独自に発行するため中央集権型ですが、仮想通貨は管理者がいない非中央集権型です。
また、CBDCは政府及び中央銀行が価値を保証するため法定通貨と同等の価格安定性がありますが、仮想通貨は市場の需要と供給によって価格が決まり一定のボラティリティがあります。
そのため、CBDCは決済の効率化や利用者の確保を目的としていますが、仮想通貨の現状は投資商品としての側面が強く、金融システムに依存しない新たな通貨・資産クラスとして発展してきました。
CBDCが注目されている理由3つ
- 現金離れの加速
- 金融包摂の促進
- 経済政策の柔軟化
近年は世界的に現金離れが進んでいるため、CBDCが以前よりも受け入れられやすいマインド・環境になってきています。
また、貧困によって預金口座を持てない方達でも、スマートフォン1台あれば金融サービスを受けられるようになるでしょう。
さらに、これまでできなかった金融政策のスピーディーな実行など、金融政策の幅も広げられる可能性があります。
現金離れの加速
近年、キャッシュレス決済が拡大し、現金の使用率が世界的に減少しています。
現に私もクレジットカード決済や電子決済を多用し、現金を使わないことが当たり前になってきました。
現在のキャッシュレス決済は一企業が運営しているサービスで、運営企業が倒産すればサービスを利用できなくなります。
一方でCBDCは国が発行する通貨のため、一企業が運営する決済サービスよりも安心感があるでしょう。
金融包摂の促進
銀行口座を持たない人々にも金融サービスを提供できる手段として、CBDCは大きな可能性を持ちます。
現在CBDCを導入している国が発展途上国であるという点からも、CBDCを導入するメリットが分かると思います。
今後は、スマートフォンさえあれば誰でもCBDCを利用できるようになるかもしれません。
経済政策の柔軟化
CBDCを通じて、政府や中央銀行はより効果的な金融政策を実施できる可能性があります。
例えば全国民に現金を給付する場合、現在は実際に全国民が現金を手にするまでに時間を要しますが、CBDCを利用すれば一人一人の口座に即時に送金できるでしょう。
またマイナス金利政策をする場合、現金には金利をかけられませんが、CBDCなら全国民の預金にマイナス金利を適用できます。
このように、これまではできなかったような政策やスピーディーな給付が実現できる可能性を秘めています。
【将来予測】CBDCがもたらす影響3選
- 現金の消滅
- 仮想通貨市場への影響
- 個人情報とプライバシーの問題
CBDCの導入が進むことで、社会と経済にさまざまな変化が訪れることが予想されます。
まず、キャッシュレス決済が進んだ現在でも現金の需要は減少しましたが、CBDCの導入が進むことで
現金の消滅に繋がる可能性があるでしょう。
また、決済目的として利用されている仮想通貨のステーブルコインはCBDCとポジションが被るため、需要の減少に繋がるかもしれません。
さらに、CBDCは国が管理するため、個人情報やプライバシー保護の観点への影響も危惧されます。
1:現金の消滅
物理的な現金の必要性が大幅に減少することにより、現金の製造や流通にかかるコストが削減されます。
額面 | 製造コスト |
1円玉 | 約3円 |
5円玉 | 約10円 |
10円玉 | 約12円 |
50円玉 | 約12円 |
100円玉 | 約14円 |
500円玉 | 約20円 |
1,000円札 | 約17円 |
5,000円札 | 約17円 |
10,000円札 | 約17円 |
上記表で分かるように、現金を作るのにもコストがかかるため、現金がなくなって製造コストがかからなくなると、別の事業にお金を回せるでしょう。
将来的には、現金が一切使われない「キャッシュレス社会」が実現する可能性もあります。
2:仮想通貨市場への影響
CBDCの登場により一部の仮想通貨、特に決済目的のステーブルコインは需要が減少するかもしれません。
しかし、ビットコインのように「デジタルゴールド」としての性質を持つ資産は引き続き注目されるでしょう。
CBDCと仮想通貨は「競合」というよりも「共存」する関係になると予測されます。
3:個人情報とプライバシーの問題
CBDCの普及に伴い、すべての取引が記録されるようになれば、プライバシーの懸念も出てきます。
仮想通貨の「特定の誰かに管理されない」というメリットが、CBDCでは適用されません。
政府による監視が強まるリスクもあるため、適切なガバナンスと透明性が求められます。
あなたの資産に与える影響とは?
CBDCの導入は、個人の資産管理にもさまざまな影響を及ぼします。
- 資産の一部をCBDCで保有することが一般的になる
- 仮想通貨への投資判断がより複雑に
- 資産の追跡可能性が高まることで、節税・脱税の困難化
例えば、日本で給与の一部がデジタル円によって支給されるようになると、資産配分のあり方も変わる可能性があります。
また、CBDCと仮想通貨の役割が明確に分かれることで、仮想通貨はより投機的な資産として分類される傾向が強まるため、今後の投資判断にはより慎重な戦略が求められます。
そして、CBDCによって取引履歴が完全に記録・可視化されるようになると、税務当局による資産把握が容易になります。
もちろん脱税は違法ですが、グレーゾーンな節税への取り締まりも強化される可能性があり、今後の資産運用のあり方に影響を及ぼす恐れがあるでしょう。
まとめ:CBDCの導入で私たちの生活が大きく変わる可能性がある
CBDCの登場は、金融インフラに革命をもたらす可能性を秘めています。
日本でデジタル円の導入が進めば、私たちの日常的な決済手段から資産の保有・運用方法まで、大きく変わることになるでしょう。
一方で、仮想通貨は依然として重要な資産クラスとしての地位を保ち続けると見られます。
CBDCと仮想通貨、それぞれの特性と役割を理解し、今後の資産形成にどう活かすかを見極めることが、これからの時代において極めて重要です。