暗号資産やDeFi(分散型金融)の普及とともに、私たちの周りには数多くのブロックチェーンネットワークが存在するようになりました。
ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ソラナ(SOL)、ポリゴン(MATIC、将来的にはPOLに移行予定)、バイナンススマートチェーン(BSC)など、それぞれが独自の特徴と利点を持っています。
しかし、これらのブロックチェーンは基本的に独立したシステムとして動作しており、相互の連携が困難という課題を抱えています。
この課題を解決する技術として注目を集めているのが「クロスチェーン技術」です。
本記事では、クロスチェーン技術の基本概念から実際の活用事例まで、わかりやすく解説していきます。
クロスチェーン技術ってなに?

クロスチェーン技術とは、異なるブロックチェーンネットワーク間でデータや暗号資産の移動・交換を可能にする技術の総称です。
従来、各ブロックチェーンは「島」のような存在でしたが、クロスチェーン技術によってこれらの島々を「橋」で結ぶことができるようになります。
現在のブロックチェーン環境では、以下のような問題が発生しています。
- 資産の分散化
- 機能の制限
投資家は複数のブロックチェーンに資産を分散して保有していますが、ブロックチェーンごとに個別管理する必要があります。
また、各ブロックチェーンには独自の強みがありますが、他のチェーンの機能を利用したい場合、複雑な手続きが必要です。
このような課題を解決してくれる可能性があるのが、クロスチェーンです。
現在のブロックチェーンが抱える課題

21世紀最大の発明とも言われるブロックチェーン技術ですが、課題も抱えています。
- サイロ化問題
- スケーラリビティの分散
サイロ化問題
ブロックチェーンはそれぞれが独立して運営されているため、「サイロ化」と呼ばれる問題が発生しています。
サイロ化とは、異なるブロックチェーン間でのデータや価値の移動が制限されることを意味します。
例えば、イーサリアムネットワーク上のDeFiプロトコルでイールドファーミングを行いたいと思っても、資産の大部分をビットコインで保有している場合、従来は以下のような煩雑な手順が必要でした。
- BTCをBTC対応の取引所に送金
- BTCを法定通貨またはETHに交換
- ETHをEthereumウォレットに送金
- DeFiプロトコルで取引実行
以上のような過程では時間コストや手数料が発生し、また複数のプラットフォームを経由することでセキュリティリスクも増大します。
スケーラビリティの問題
各ブロックチェーンは異なるスケーラビリティソリューションを抱えています。
イーサリアムは高いセキュリティを提供する一方でガス料金が高く、バイナンススマートチェーン(BSC)は低手数料ですが中央集権的、ソラナは高速処理が可能ですが安定性に課題があるなど、それぞれに特徴があります。
ユーザーは用途に応じて最適なチェーンを選択したいものの、資産の移動コストや複雑性がボトルネックです。
クロスチェーン技術のメリット・デメリット

クロスチェーン技術はブロックチェーンを一歩前進させた技術ですが、メリットとデメリットが存在します。
- クロスチェーンのメリット
- クロスチェーンのデメリット
クロスチェーンのメリット
- 流動性の統合
- ユーザビリティの向上
- イノベーションの促進
従来、各ブロックチェーンの流動性は分散していましたが、クロスチェーン技術により、異なるチェーンの流動性を統合して活用できるようになりました。
また、ユーザーは複数のウォレットや取引所を使い分ける必要がなくなり、シングルインターフェースから複数のブロックチェーンにアクセスできるようになります。
そのため、Web3サービスの使いやすさが大幅に改善されました。
そして開発の視点に立つと、開発者は特定のブロックチェーンの制約に縛られることなく、各チェーンの最適な機能を組み合わせた新しいアプリケーションを構築できます。
例えば、ビットコインのセキュリティ、イーサリアムのスマートコントラクト機能、ソラナの高速処理を組み合わせたサービスの開発が可能です。
クロスチェーン技術のデメリット
- セキュリティリスクの増大
- レギュレーションの不確実性
クロスチェーンブリッジは、ハッカーの主要なターゲットとなっています。
2022年には、ロニンブリッジやワームホールなど、複数の大型ハッキング事件が発生し、数百億円規模の損失が発生しました。
主なリスク要因
- スマートコントラクトの脆弱性
- バリデーターの不正行為
- 鍵管理の問題
- フロントエンドの攻撃
また、クロスチェーン技術は比較的新しい分野であり、規制当局の対応が明確でない場合があります。
そのため将来的な規制変更により、既存のクロスチェーンサービスが制限される可能性もゼロではありません。
主要なクロスチェーン技術の種類

ここからは、主要なクロスチェーンをご紹介します。
- アトミックスワップ
- サイドチェーン
アトミックスワップ
アトミックスワップは、第三者を介さずに異なるブロックチェーン間で直接的な資産交換を行う技術です。
メリット | 取引所を介さない 信頼が不要 プライバシー性が高い |
デメリット | スピードはブロックチェーンに依存 利用ハードルがある |
アトミックスワップのメリットは、資産交換に取引所を介す必要がない点です。
また、暗号技術によって取引の安全性が担保されており、プライバシー性は高いものの、対応通貨や流動性が限定されるため実用性に課題があります。
一方で、交換スピードはブロックチェーンの能力に依存し、技術が複雑なため利用ハードルがあるでしょう。
サイドチェーン
サイドチェーンは、メインチェーンと並行して動作する独立したブロックチェーンです。
メリット | 手数料が安い スケーラビリティの向上 |
デメリット | セキュリティ依存 分散性の低下 |
サイドチェーン上では手数料を抑えられ、メインチェーンの負荷を軽減できるため、スケーラビリティの向上に繋がります。
しかし、サイドチェーンは通常、メインチェーンのセキュリティを直接は利用できないため、サイドチェーン独自のバリデータやマイナーの安全性に依存します。
また、多くのサイドチェーンはメインチェーンよりもノード数が少なく、中央集権的になる傾向にあるでしょう。
実際の活用事例

クロスチェーンの実際の活用事例をご紹介します。
- DeFiにおけるクロスチェーン活用
- クロスチェーンDEX
- NFTのクロスチェーン移動
DeFiにおけるクロスチェーン活用
ラップドビットコイン(WBTC)
ラップドビットコイン(WBTC)はビットコインをイーサリアムネットワーク上で利用可能にするトークンです。
ユーザーはビットコインを預けることでWBTCを受け取り、イーサリアムのDeFiエコシステムでビットコインの価値を活用できます。
ポリゴンブリッジ
ポリゴンはイーサリアムのサイドチェーンとして機能し、ユーザーは資産をイーサリアムからポリゴンに移動することで、低手数料で高速な取引を実現できます。
多くのDeFiプロトコルがポリゴン上でも展開されており、ユーザーは同様のサービスをより安価に利用可能です。
クロスチェーンDEX
ソーチェーン
ソーチェーンは、カストディアンを必要としないクロスチェーン流動性プロトコルです。
ビットコイン、イーサリアム、バイナンスコインなど、異なるブロックチェーンのネイティブ資産を直接交換できます。
マルチチェーン
マルチチェーンは20以上のブロックチェーンをサポートしていましたが、2023年以降は運営停止リスクが指摘されています。
ユーザーフレンドリーなインターフェースにより、技術的な知識がなくても簡単にクロスチェーン取引を実行できます。
NFTのクロスチェーン移動
Axie Infinity
人気のNFTゲーム「Axie Infinity」では、イーサリアムからロニンサイドチェーンへのNFT移動により、ゲーム内での高速かつ低コストな取引を実現しています。
OpenSea
大手NFTマーケットプレイスOpenSeaは、ポリゴン統合により、ユーザーが高額なイーサリアムガス料金を支払うことなくNFTの取引を行えるようになりました。
まとめ|クロスチェーン技術がもたらす変革
クロスチェーン技術は、ブロックチェーンエコシステムの分断問題を解決し、真の意味でのWeb3経済圏の実現に向けた重要な基盤技術です。
現在はまだ発展途上の段階にあり、セキュリティや複雑性の課題が存在しますが、技術の進歩とともにこれらの問題は徐々に解決されていくと考えられます。
投資家やユーザーは、適切なリスク管理のもとで、この革新的な技術の動向を注視し続けましょう。